国鉄民営化再考〜郵政民営化が問われる時代にこそ!


<お仕事で書いた文章>


愛媛新聞』2005年7月11日(月)「マスコミ時評」欄に掲載済み。


本来なら、メディア論の文章だが、尼崎JR線脱線事故の遠因に国鉄分割民営化があるのではないかという論旨なので、鉄道ネタにもしておく。郵政民営化が問われる時代にこそ、国鉄民営化のその後をきちんと検証する必要がある!



===以下、本文=====


「露呈した解説報道不足」〜集団過熱報道はいつまで続くのか〜


 尼崎JR脱線事故が起こってから二カ月余りが過ぎ、運転も再開された。しかしながらマス・メディアに目を転じると、残念ながら、今回の事故に関して、その報道には問題点が多かったと言わざるを得ない。大きく分けて、問題点は、「集団過熱報道」と「解説報道不足」の二つである。
 前者について言えば、マス・メディアはJR西日本の「不祥事」探しに奔走し続けた。だが、本当にそれは必要だったのか。事故現場から二人の運転士がそのまま出勤したというが、あえて書けば、それは本当に問題だろうか。もし彼らが出勤せず、その分、他の運転士に負担が生じていたならば、第二、第三の事故が起こりはしなかっただろうか。
 そのほかにも、懇親会を開いたりといった、細かなニュースばかりが繰り返し報道され続けた。しかし、本当に必要だったのは、事故の背景の理解ではなかったか。
 これについて言えば、なぜ電車が脱線したのかということ以上に、そもそも、なぜ他でもないその地域で、なぜ他でもないJR西日本という会社において、事故が起こったのかという点が問われるべきである。
 というのも、技術的な問題以上に、大きな社会的背景があると思われるからである。ようやくいくつかの雑誌で指摘されてきたが、それは国鉄の分割民営化問題である。
 すなわちJR西日本は、他の会社と比べ、非常に大きな負担を持った会社なのである。まず、東日本社会と比べ、中小規模のまちが点在するゆえに、数多くの赤字ローカル線を抱えねばならない。この負担に加え、私鉄との競合の激しい大阪都市圏を抱えねばならないという状況がある。
 特に、戦時中から国が私鉄を規制してきた東京圏と比べると、大阪圏は格段に競争が激しい。それが数多くのローカル線をも抱えた一企業に負担としてのしかかれば、いずれ無理がくることは想像に難くないだろう。
 しかし依然として、こうした根本的な問題は放置されたままになっているのが現状である。長い目で見た場合、マス・メディアが、事故の原因や背景を的確に報道し、それを我々一人ひとりが心に止めておくならば、それは少なからず、事故の再発防止に役立つはずである。
 事故と同様に、マス・メディアの報道についても、事後的な検証を十分に行う必要がある。(松山大人文学部講師)
(了)