『望まれる健忘症対策〜歴史的背景の掘り下げを!』


<お仕事で書いた文章>


愛媛新聞、2005年5月30日(月)「マスコミ時評」欄の掲載の記事原稿。


タイトルは・・・


『望まれる健忘症対策〜歴史的背景の掘り下げを!』


です。


竹島問題など、日韓関係の悪化を伝えるニュースが溢れていますが、


「あれ?今年は、日韓友情年じゃなかったのか〜?」

「っていうか、去年あれだけ韓流ってさわいでたんじゃないのお?」

っていう素朴な疑問を書き留めておこうと思いました。


日本人の「健忘症」はしばしば指摘されていますが、
それは心理学的な特質や、DNAなどではなくて、
社会の変化が激しくて、ついつい覚えきれないという
社会的な要因によるものでしょう。


だからこそ、「健忘症」の社会的な対策が必要ではないでしょうか。



=====以下、本文===================


 前回、新聞が解説メディアとしての機能を果たして欲しいと提言した。その背景には、複雑化する社会情勢があった。
 では、どのような解説が特に重要か。今回は、歴史的な背景に関する解説への期待を記しておきたい。
 まず社会情勢の複雑化には、二つの軸がある。いわば「横軸」と「縦軸」である。
 前者には、国際化が相当する。言うなれば多様な価値観への気づきである。 様々な国との交流が広まれば、同じ出来事であっても、それだけ多くの見方に分かれる。この点について日本の新聞は、アメリカを中心とする欧米側の視点に偏っているという点を、前回例示した。
 次に、後者の「縦軸」には、歴史的な広がりが相当する。時代が過ぎると、過去に間違いと思われていたことが、正しいと認めなおされることはよくある。あるいは、過去にそのようなことがあったことを、きれいに忘れ去ることすらある。あまりに変化の激しい社会に生きてきたせいか、日本人の健忘症はよく指摘されるところである。
 しかしながら最近、その症状が、あまりに悪化していないだろうか。
 ここで想起されるのは、中国や韓国など、東アジア諸国との関係悪化である。
 とりわけ韓国については、今年は日韓友情年であるにも関わらず、あれほど盛り上がっていた韓流ブームはどこに行ってしまったのだろうか。
 去年、あれほど紙面を賑わせた「ヨン様」「ビョン様」は影もなく、むしろ竹島問題・靖国問題など関係悪化を伝えるニュースばかりが目立つ。
 もちろん、こうした問題には、深刻な背景があり、解決は容易ではない。しかしながら、であればこそ、短期的な感情論だけで議論してはならない。
 ワールドカップに始まり、昨年あれほど友好ムードが盛り上がったことを想起しながら、短期的な損得ではなく、長期的に双方にとって利益のある選択肢を探していかねばならないだろう。当たり前だが、隣国は最も仲良くすべき相手のはずだ。
 日々のニュースを、短い時間に垂れ流し続けるテレビと違い、時間をかけてじっくりと読みこむ新聞にこそ、こうした歴史的な広がりを振り返らせてくれる解説記事を期待したい。
 これも以前に述べたことだが、他のメディアと比べ、新聞の特質として、過去の記事情報に関するアーカイブ(保存庫)が充実しているという点がある。縮刷版だけでなく、昨今ではインターネット上でも簡単に利用できる。こうした資源を有効活用し、日本人の健忘症を予防する解説記事を期待したい。